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NEWS

平和や連帯への願いこめて
家族愛がにじむ新境地も
―歴代グランプリ受賞者と作品の思い出(後編)

2022年表彰式の様子
優勝

2020年グランプリ
『優勝』
久野浩太郎(大阪府)

平和を求めて

2021年グランプリ
『平和を求めて』
まりも(北海道)

ウクライナ侵攻を予見した1枚

 2020年は新型コロナウイルスの感染拡大によって表彰式が中止になった。グランプリに輝いたのは、久野浩太郎さんがサッカーの大会で優勝したチームの姿をダイナミックに描いた『優勝』。大阪府の就労支援施設で絵画に打ち込む久野さんにとっては、初めてのコンテスト参加での栄冠だった。「まだまだ満足していない」というコメントだったが、審査委員会では「俯瞰した構成のおもしろさと観客が丁寧に描かれている」と高く評価され、カヌーと聖火リレーという、延期になったオリンピックにマッチしたテーマの準グランプリ2作をかわしての受賞になった。

 戦闘機が飛び交うまがまがしい光景と、ひまわりが咲き、蝶が飛び交う平和な世界を分けるバーを飛び越えようとするハイジャンプの選手。2021年、1年遅れで開かれた東京オリンピックの年にグランプリになった『平和を求めて』は、北海道札幌市在住のまりもさんが、日常的に伝えられる紛争のニュースに接して、「そもそもなぜ争いが起きるのだろう」という疑問から描いた作品。紛争地域から東京に集ったオリンピック選手たちの懸命な姿から着想された。遠藤彰子審査委員長(武蔵野美大名誉教授)は「平和や希望のメッセージを伝えていて、構図にも魅力がある」と評価。作品が予見したかのように、翌2022年には世界を揺るがすロシアのウクライナ侵攻が起きた。いまだ解決を見ないウクライナやガザ地区へと思いを向けざるを得ない1枚だ。

全身全霊

2022年グランプリ
『全身全霊』
サトウモトコ(桃太郎/北海道)

団体優勝の夫

2024年グランプリ
『団体優勝の夫』
鈴木綾子(宮城県)

パニック障がい乗り越え銀皿手に

 2022年のグランプリは、前年に続いて札幌市在住のサトウモトコ(筆名・桃太郎)さんが新体操をテーマに描いた『全身全霊』だった。パニック障がいなどを発症してからの30年は薬への依存から脱却しようともがいた日々。受賞の5年前に絵画に取り組み、症状が好転した。病からの復活を自ら祈念するかのように、作品の背景には不死鳥を描いた。表彰式では銀皿を手に「障害者手帳を手にしていろんなことをあきらめていた昔の自分に受賞を伝えたい」と喜びを語った。

 家族愛がにじむ歴代でもめずらしい作風でグランプリを射止めたのが、前回の鈴木綾子さん。結婚する前の若い夫が国民体育大会で優勝した一葉の写真をモチーフに描き、40代で突然負った障がいを乗り越えた夫婦の日々の重みがにじむ作品になった。審査委員長の櫛野展正さんは「地味だが、構図も明暗もしっかりと描かれている」とコメント。本格的に絵を習い始めて3年ほどで成果を実らせた。

魂のひと漕ぎ

2020年準グランプリ
『魂のひと漕ぎ』
ティンくん(茨城県)

あなたと一緒なら

2021年審査員特別賞
『あなたと一緒なら』
Marumi(埼玉県)

パートナーとの絆描いて準グランプリ

 惜しくも最優秀作を逃した準グランプリにも印象的な作品は多い。中でも2020年の2作はいま目にしても鮮烈だ。茨城県のティンくんがカヌー競技に題材をとった『魂のひと漕ぎ』は水の流れに抗うように漕ぐ選手の体にみなぎる緊張感が秀逸。学校になじめずに、自宅で絵に打ち込んできた長年の成果を躍動感十分の作品で存分に出した。その後も各競技でコンテストに挑戦。大好きな動物の絵は、SNS上でも人気を博している。

 同年のもう一つの準グランプリ『平和の燈』は、埼玉県の会社員、Marumiさんが聖火リレーに人びとの平和への希望を灯すように描いた幻想的な作品。聖火の流れを一つの画面にまとめた構図が評価された。Marumiさんは翌2021年に、『あなたと一緒なら』で審査員特別賞と、女子マラソンの金メダリストが選ぶ野口みずき賞をダブル受賞。ブラインドマラソンの走者が伴走者と結ぶロープによる心の絆が、春の植物を生み出すような作品。本人によれば、障がいを支えてくれたパートナーとの結婚を機に描いたものという。

文/伊東武彦(スタジオ・モンテレッジォ)

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